瀬奈じゅんを語る

宝塚歌劇団月組のトップスターだった瀬奈じゅんさんが、去年の12月に退団しました。


あさこさん*1はずば抜けたカリスマ性を持っていたわけでも伝説のトップスターというほどの人気があったわけでもなかったけど、私にとっては特別なタカラジェンヌでした。


小さな顔にすらりと伸びた長い手足、伸びやかで美しい歌声、素晴らしいダンス、麗しい美貌…。けどよく考えたらそんなのかなりの割合のタカラジェンヌが持っている。じゃあ何で私は彼女にあれほど惹かれたのか。彼女の何が特別だったのか。他の人にはない、彼女だけの魅力とは何だったのか。


舞台での彼女には妖しい色気があった。切れ長の目が奏でるあの流し眼に何度も「殺された」し、語尾でふっと力を抜く艶っぽい歌い方に胸が苦しくなった。激しいダンスの後、肩で息をしながら乱れた前髪をかき上げる姿はほんとに生唾ものだった。同じ女でありながらこれほどドキドキしてときめいてしまうなんて私はどうかしたんだろうか?!と思ったくらいだった。けど「妖しい色気」なんてそれこそそこそこの上級生になれば上手に操れる魅力のひとつ。彼女の色気は「格別」ではあったけど、「特別」ではなかった。


不思議なことに、いなくなって分かった彼女の魅力は「儚さ」だった。


華奢なジェンヌなんて山ほどいるけど、彼女のような儚さを纏った人は他には知らない。俺様キャラで通していた半面、切なく歌いながらきゅっと眉根を寄せる姿になぜか「守ってあげたい」と思ってしまうのだ。ただ線が細いだけじゃなくて、なんだかふっと消えてしまいそうで…。結局、実際に退団し「消えて」しまってから私はその危ない魅力に気付いたのだった。


最後までほのかに漂っていた花組の香りがそれを際立たせていた可能性もある。花組でおささん(春野寿美礼、彼女こそ色んな意味で伝説な気がする)とともに「オサアサコンビ」で黄金時代を築いたからこそ、月組にいながら月組にいないような…。私は、守ってあげたいとか言いながら彼女にすがりたかったのかもしれない。行かないで、消えないで、ここにいて。あなたが好きだから。…という思いは、どちらの感情でも成り立つ。


男役での彼女に惚れていたからこそ*2、退団した彼女にもう用はない。在団中も入りや出には興味なかったし、プライベートなんてそれこそほんとにどうでもよかった。まぁそれはどのジェンヌに対してもそうだけど。


さて、次は誰のとりこになるんだろうか。また刹那的な夢を見に劇場に足を運ぼうと思う。

*1:彼女の公式の愛称で、ファンの多くはこう呼ぶ

*2:2005年の月組エリザベートのタイトルロールは私の中ではなかったことになっている