解剖学実習 中編

解剖学実習中は、毎週試験が行われます。その週の担当の先生にもよるのですが、だいたい「ここに見えてる血管の名前は?」とか「この筋肉の起始と停止の場所は?」といった具合の口頭試問だったりします。

どの先生の試験もべらぼうに難しいというほどではなくちゃんとメジャーどころの血管や神経や筋肉の名前なんかを覚えておけば大丈夫で、たとえ分からなくても試験後色々教えてくださったりするのですが、S先生は違いました。この先生の場合は難しい。難しいっていうか


いやそれは無理でしょ


ってくらい難解なのです。ピンポイントで名前を覚えるだけでなく、血管や神経なら走行、あとは臓器の機能なんかを体系的にきちんと覚えていないと答えることができません。しかも日本語のみならず「英語では何ていうんだ?」と聞かれる可能性もあるため英名でも答えられるようにしておかなければならないのです。S先生による試験の順番が回ってきた週、私は例によってかなりテンパり、ものっそい勉強して朝から胃がキリキリするくらいの状況で試験を受けることとなりました。

そして試験の時間。まずは同じ班の男の子が受けたんですが、なにやら試験範囲を間違えていたかなんかで(おいおい・・・)開始20秒くらいで早くも撃沈。


S先生「お前は何を勉強してるんだ!月曜までにレポート20枚書いて来い!!


ひえええぇぇぇぇ・・・


同士が目の前で木っ端微塵に打ち砕かれる姿を見た私はさらにテンパるはめに。そしてとうとう私の順番が回ってきました。内容は肝臓とか胆嚢とかその辺関連のこと。運のいいことに一応ヤマはって覚えていたところだったので、ガタガタ震えながらも答えはじめました。そして忘れられない瞬間がやってきたのです。


私「えええええとそしてあのー次にここにありますこの門脈を通って・・・」
S先生「門脈は英語で何て言うんだ?
私「あ、はい、門脈ですね、門脈は・・・門脈は・・・・・・・・・あ、あれ?!


・・・初めて「頭が真っ白になる」という経験をしました・・・。もともと英語は得意だったし、門脈くらいちゃんと覚えていたのに、本当にすっぽりと抜け落ちしてしまって全く思い出せなくなってしまったのです。哀れなくらい慌てる私を見て先生は


S先生「・・・Portal Vein、だろ」


そうだ!そうだ、Portal Veinだ。そうだった・・・。言われた瞬間からまたどあ〜っと記憶がよみがえってきてその後は落ち着いて答えることができたのですが、あの瞬間は本当に焦りました。でも先生も私が度忘れしただけだと分かってくださったようで、その試験は無事通ることができました。まぁ落ちたところでレポート20枚書けば済むんですが、なぜかものすごい緊張してしまうんですよね・・・しかしその時の私の慌てぶりが面白かったのか、その後その先生とはわりと仲良くなり、実習中にも色々と教えていただくことができました。


でもこの試験以来、「門脈=Portal Vein」は忘れたことがありません。