2007年9月20日 劇団四季「この生命誰のもの」

尊厳死がテーマのストレートプレイです。初演はなんと28年前。
交通事故により首から下が完全麻痺となってしまった主人公早田が、このままでは生きている意味がない、自分がどうするかは自分で決める、そして尊厳を持って死ぬ権利を主張する・・・というもの。そして彼の病室でその「死ぬ権利」を巡り、裁判が行われます。
舞台は病室のみ。主人公の早田はベッドに寝たきり。出演者も少ないです。
詳しくはこちら
http://www.shiki.gr.jp/applause/inochi/index.html



私が舞台を見に行くのは現実逃避が主な理由なため、これは見に行くかどうか最後まで迷いました。でも行ってよかったです。脚本も役者さんも素晴らしく、とてもいい舞台でした。
1幕では早田が担当医である北原に言う言葉が突き刺さり、まるで蛇口をひねったかのように涙が止まりませんでした。そして主治医である江間博士の正論と患者である早田の希望に挟まれる担当医北原も自分と姿がだぶり、見ていて非常に辛かった。台詞を聞くのが苦しくて、これは最後まで持たない・・・とすら思ったくらいです。
2幕は最後の判決が出た後の江間のほっとした表情が印象的でした。江間の気持ちは手に取るように分かったし、その後の江間が早田にかけることばとそれに対する早田の返答には私自身がすごく救われました。
ラストに納得いかないという意見を多数見ていたのですが、私は非常に納得いくものでした。


私は一般の人とは少し違った視点から見ていたかもしれません。尊厳死云々よりも医師の存在意義とは、患者の権利とは、「患者のため」とは一体何か・・・
上記に書いた役柄以外にもキーとなる役柄はあり、色々なテーマやメッセージが伝えられています。
あの台詞をもう一度聞く勇気が出たら、10月7日の千秋楽までにまた見に行こうと思います。幸か不幸かチケットはいつでも手に入りますから・・・orz


以下詳細な感想です。印象に残った台詞、裁判の結果などネタバレあります。






「あなたが僕にトランキライザーを処方しようとするのは、僕のためじゃない。自分が楽になるためだ。本当にトランキライザーが必要なのはあなただ!」「あなたが僕を見て感じるのは無力だ。そしてあなたは僕から距離を置く。」「都合の悪い話題になると、壁の色がどうとかってみんな話をそらそうとする。あなたたちは僕に対して罪悪感を感じている。そしてあなたたちに罪悪感を感じさせているということが僕自身の罪悪感につながるんだ」
一語一句覚えているわけではないので少し違っていると思いますが・・・。でもこれらの台詞は本当にぐさっときました。
また、職業意識のもとある種“優等生”である北原と真逆に早田のことを「かわいそう」など思ったことをそのまま口にし、早田を特別扱いしない看護師田原は対照的でした。精一杯気を使っていた北原よりも一般的にタブーとされる言動が絶えない田原といる方が気が楽でいいと早田に言われたときは、それはそうだろうなと理解できてもやはりショックでした。でもたとえ理解できても私も“優等生”だからきっと田原のようにはなれない。それがまた私を苦しめます。
裁判の準備が進む中、夜中に私服で早田の病室を訪れた北原が「本当は裁判に勝とうと思ってるのではないのではないか」と早田に問い、「そうかもしれない」と素直に認める早田のやり取りは非常に印象的でした。いつもと違うシチュエーションに早田も気を許したのでしょうか。白衣や医師免許が疎ましく思えた瞬間でした。裁判の真の目的、早田の真の気持ちが垣間見える際立つシーンでした。
最後は「病院は患者の退院を認めるように」との判決が出ます。それまで険しい表情で「医者の仕事は患者を生かすことだ。死なせることはできない。治療は続ける」の一点張りだった江間博士がほっとしたような表情を見せます。自分では下したくても下すことができなかった決定に、安堵したのだと私は理解しています。江間は早田に「あなたが望まないなら治療はもうしない。でも他に行くところもないでしょう?この病院にいなさい」と提案します。それを受けて「ええ、ここにいさせてください」と早田が答えます。早田が本当に病院がいやというわけではなく、ただ純粋に「自分の選択肢は自分で選ぶ」ということを望んでおり、それを認めてほしかったんだということが分かります。ちなみに江間が早田に病院に留まるようすすめたのは「あなたの気が変わるかもしれないから」。お芝居は終わりますが、きっと早田が死ぬまで「治療しましょう」「いや、しません」のやり取りが行われるんだろうな・・・と思えました。でもそれは今までのようにお互い意地を張るのではなく、きっとやわらかい雰囲気の中行われるんだと思います。