夢に出てきて

大好きだった患者さんが、死んだ。


出会ってから1年半。私が一番やる気だった時に、私がとった患者さんだった。最初に会った時のこともはっきり覚えている。彼女は私にとって特別だった。彼女にとって私も特別だった・・・と思いたい。

家の中は、彼女にもらったもので溢れている。化粧台の上には彼女が作った折り紙の花束に手作りのアクセサリー。棚の上には彼女にもらったぬいぐるみ。台所には彼女にもらったスプーンもある。院内PHSにはおみやげのストラップがくっついている。そして、レターボックスにはたくさんの手紙・・・なぜか私がへこんでいるときに限って、彼女から手紙が届いた。不思議だなぁと思いながら、毎回「やっぱりもうちょっとがんばろう」と思う原動力になった。

入退院を繰り返していたから、入院したと聞くたび会いに行った。毎回毎回痩せていっていたけど、予後がいいタイプだったし、順調にいってたし、私は治るものだと信じていた。絶対に完治すると思っていた。だから、もし彼女が治らなかったら、もし彼女が死んだら医者をやめよう、と思っていた。

最期に会ったのはICUだった。ICUに入室したことを知ってびっくりしてとんで行ったら、挿管の準備がされていて、鎮静をかけられる直前だった。慌てて「池田です。分かりますか?」と声をかけたら「あぁ・・・」と言ってくれた。

次に会った時はもう挿管されていて、鎮静がかけられていた。私が受け持っていた時とあまりに違うその姿を見たら思わず涙が出てきて、慌ててICUを退室した。その後は「医師」という特権を乱用して、面会時間外によく会いに(というか見に)行った。足しげく通っていたら運良く一瞬鎮静が切られていたことがあって、そのときにちょっとお話した。何か、何か明るい話題・・・と思って一生懸命話していたら、彼女は挿管チューブにむせながら、笑ってくれた。彼女と意思疎通ができたのは、それが最後だった。もう会えない。もう話せない。もう、手紙は来ない。

彼女の最期には立ち会えなかった。お通夜は当直とかぶってしまい、行けない。告別式も日中だから、さらに行けない。

仕方ないから彼女にもらったグラスで、彼女にもらったお酒を飲み、独りでお別れをしようと思う。でも独りでお酒を飲んでるなんて言ったらまた「先生ダメよぉ、若いのに〜」なんて言われそうだな〜・・・。言われたいけどね、叶うことなら。