時代の変化

「もう、「キツさ自慢」の医者たちの時代は終わった」
「いやしのつえ」http://www5f.biglobe.ne.jp/~iyatsue/「Doctor's Ink」より

でも、最近、どんどん流れは変わってきています。今までは「患者さんの全身が診られないと、医者らしくない」と敬遠する学生も多かった眼科が、「QOLも高いし、目の治療で患者さんの役に立てるならば、それでもう十分じゃないか」ということで、どんどん人気が高まってきていますし、逆に、小児科や産婦人科、外科といった、キツくてリスクが高い科の人気は下降気味です。今まで、「給料は安くても、大きな病院で、最前線で働きたい」という医者の「常識」は、どんどん揺らいできています。でもそれって、普通の「職業」としてはごく当たり前のことで、別に「悪いこと」ではなくて、「そんなリスクを背負ってボロボロになるよりは、ある程度自分の生活を大事にしたい」というだけのことなんですよね。そもそも、どんなに頑張ってみたところで、みんなが教授や大病院の院長になれるわけじゃない。じゃあ、どうするのか?それでも大きなリスクを背負って、いつ破裂してしまうかわからない医者としての自分の可能性に限界まで賭けるのか?それとも、医療を生業として考え、自分の手の届く範囲内の患者さんに誠実な医療をしていく程度で満足して、ひとりの人間としての「楽しい生活」を求めるのか?もちろん、そんな仕事は辞めてしまう、という選択肢だって、なくはないのですが、現実的には、この2つの狭間で、「教授や大病院の院長にはなれない僕ら」の心は揺れ動いているのです。


こういう考え方を持った先生がオーベンならやりやすいだろうな・・・と思ってしまいます。

幸いにもこの1年間、私はオーベン・チューベンの先生に恵まれて、意見を聞いてもらえなかったとか「研修医のくせに」といった言い方をされたことはありませんでした。直明けの時は早めに帰っていいよと声をかけていただいたり、チューベンの先生が日直の時はちょっと遠出してもいいよと言ってもらえたり・・・そのかわりそういう時以外は精一杯仕事を頑張ってきたつもりです。逆手にとって甘えたりすることはしませんでした。

しかし一部の科では「病気に休日はない!ゆえに医者に休日がないのは当然!休み云々言うやつは臨床医としての将来を考え直せ!そんな医者はうちの科にはいらない!!」と本気でおっしゃる先生がいます。しかしその意見を聞いて「全くその通りィィ!!」と眼を輝かせる研修医はほぼ皆無です。みんな「あぁ、あの科はないな」と思うだけです。

時代は確実に変わってきています。なのにそれに乗らず「古きよき考え」を通そうとする上の先生がいる科には、もう研修医は集まらないと思います。そうすると余計に「忙しくてキツくてリスクが高い科」になり、さらに研修医が集まらなくなり・・・という悪循環が続きます。環境を整えなければいずれ崩壊するだろうな・・・と思ってしまう科はいくつかあります。

でも誤解しないでいただきたいのは、みんな決して仕事をサボろうとか中途半端でいいやとか思っているわけではないということです。「やりたい職業」としてこの仕事を選んで一生懸命やっていくつもりではあるけど、「家庭を捨ててまで頑張る」というところまではいかない程度でやっていきたい、と思っているんだと思います。何もかも犠牲にした上に成り立つ医療しか正しくない、忙しさとキツさに耐えてこそ真の医者、という考え方は通用しなくなりつつあると思います。教授や病院長まで上り詰めなくてもいい、ただ、自分ができる範囲で患者さんを診たり治したりしたい。そう思うことは決して悪いことではないはず、医者に向いてないわけじゃないはず・・・と信じています。