忘れられない患者さん 1人目

やっとやる気が出てバイト後カフェでバリバリ勉強・・・と思いきや、とある疾患の名前を目にしたとたん手が止まってしまい、いくら文章を読んでも頭に入らなくなってしまったため、諦めて家に帰ってきてしまった。


5年の実習で皮膚科を回ったとき、初日の外来で1人の中年男性のアナムネをとった。


私「今日はどうされましたか?」
男性「なんかね、足に黒いほくろみたいのがあるんですよ。まぁこれはちょっと前からあったんですけど、なんか最近大きくなってきてる気がしてね。そしたら家内が心配だから病院に行けっていうもんで・・・」
私「なるほど、ほくろみたいなものがあるんですね。ちょっと見せていただいてもよろしいですか?」


マニュアル通りにいくつか質問をさせていただきながら、足の指先にできたちょっと変な感じがする「ほくろみたいなもの」の所見をとり、一旦患者さんに待合室に戻っていただいてから担当の先生にカルテを渡しにいった。記載した内容などについて質問されたりダメ出しされたりしてから実際の診察が始まり、私は先生の隣に座って診察を見ていた。あまり覚えていないけど、確か、写真を撮ったりしていた気がする。診察が終わって患者さんが外に出ていくと、


先生「診断は何だと思う?」


ひえぇぇ来たー!!でも皮膚科初日だよ!!分かんないよ!!と思いつつも、とりあえず普通のほくろじゃなさそうだったし、でもだとしたらこれしか思いつかないし・・・というものを言ってみた。


私「えぇと、悪性黒色腫・・・ですか?」
先生「うん、多分そう」
私「・・・は、はぁ、そですか・・・」
先生「・・・・・・」
私「・・・・・・」
先生「あ、でも滅多にある疾患じゃないからね」


初日でいきなりあたったため「もしかして実は結構見る疾患なのか??」と思い始めてしまっていたけども、先生の言葉で我に返った。診断は、ある意味簡単だった。でも簡単に言い当ててしまったからか、なぜかなんだか後ろめたくて、あの後あの男性はどうしたんだろう、どうだったんだろう、どうしてるんだろう・・・と気になってしょうがない。男性と話していた感じでは「悪性黒色腫→ど悪性」なんて図式はさらさらなさそうだったし、けど部位的に指のamputationということはかなり考えられるし、もしあの時点でもっとかなり病期が進んでたとしたら・・・もしそんなことになったら仕事は?家族は??それ以前にご本人は・・・

たった数分しか関わらなかったのに、「悪性黒色腫」「メラノーマ」という単語が出てくるたびあの患者さんのことを思い出す。なんでか分からないけど、毎日病室に通って仲良くなった患者さんたちよりも印象が強い。


ほんと、なんでだろう。でも多分一生忘れないんだろうな。